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「君の使い魔…キュートなところが君にそっくりだよ……」 稚拙で甘ったるい言葉だな、聞いていて思わずゲロが出そうだぜ。だが、モンモランシーはまんざらでもない反応を示す。なるほど、この 姉ちゃんはこの優男を悪く思ってないんだな。そうじゃなきゃ、こんな言葉を聞いた瞬間拳が出てもおかしくないぜ。 「僕は、君の瞳に嘘はつかないよ」 冗談は顔だけにしてくれ、お前大嘘ついてるじゃねぇか。 「でも最近、一年生と付き合っていると言う噂を聞いたんだけど?」 「うっ!……馬鹿な事を……君への想いに裏表なんてないんだ……」 察しがいいな、昨日の借りもある。少々首を突っ込んでみるか……。 「そう言えば……昨日は暗かったから両方黒と思っていたが、あの姉ちゃんのマント茶色かったかな……学年ごとに色分けされているのか」 余計な一言で付け加えた俺の言葉で焦りの表情がうかがえる優男と、疑念を滲ませるモンモランシー。 「とっ…とっとと仕事に戻りたまえ……ああ!ゼロのルイズの……!!」 「昨日は後ろから襲って悪かったな、じゃあな」 にこやかに去る俺を見たモンモランシーは一層疑念に満ちた顔で優男に問い質す。 「ねぇギーシュ何の話よ?トニーの言った意味を説明してちょうだい」 この優男の名前はギーシュと言うのか。野郎、二股ばれそうになって焦ってやがるな。 「あっ……」 これはこれは……昨日優男と一緒に乳繰り合っていたガキじゃねぇか。反応から察するに、襲ったのが俺だと言うのに気が付いてやがるな。 そしてバスケットを持って優男探しているところを見ると……破綻も時間の問題か。 「あ…あの、ギーシュ様は……?」 「ああ、ギーシュ『様』なら、あちらのテーブルですよ」 腹から来る笑いを堪えながら何食わぬ顔をして対応すると、多少疑問に持ちつつもこのガキは優男の元に走っていく。自重しても、ニヤケた 顔を止める事は後半になって無理になった。いや、笑うだろ?コレは。 「ギーシュ様ぁ♪」 まずいな、笑いがとまらねぇ。この先の顛末を容易に予想できる辺り我慢出来ないな……。 「ケ…ケティ!?」 「探しておりましたわ、ギーシュ様ぁ♪」 普通ならば、状況が普通ならば普通の恋人に見えるのだが、横に居るモンモランシーが笑いを誘う。 「昨日話しておいた手作りのスフレ、今日のお茶会にと思いまして」 このガキの一言でモンモランシーの疑念が最高潮に達する。 「昨日の?」 「よかったじゃねぇか色男、お前昨日嬉しそうに話してたじゃねぇかよ」 そこで止めの一言を投げかけた。 「き…君!?」 「本当の事じゃねぇか」 「さっきから君は何を言ってるんだ!彼女たちに誤解を……」 「誤解か?俺は事実しか言ってないぜ……あのまま俺に襲われてなかったら、そのまま草むらか何処かに連れ込んで犯っちまう手筈だったんだろ?」 この一言に場が一気に緊張する。貴族は聞かないかもしれない下品な言い回しで攻め立てると、非常に苦し紛れだが優男は反論する。 「ヤるって何だ!?」 「知らないんかよ……そりゃ押し倒して××××××××しちまう事なんじゃねぇの?」 最後の下品極まりない一言に場は爆笑に包まれ、もう笑うしかない奴や、困惑する奴、赤くなる奴様々だった。モンモランシーとガキはこの一言が 止めとなり、全身全霊の平手打ちをこの優男に浴びせて背を翻していった。がっくりと肩を落としながらもしっかりと起き上がる。 「どうやら君は……貴族に対する礼を知らないようだな」 女二人に平手を浴びた優男の怒りは、はっきりと俺に向いた。 「知らねぇなそんな事は」 「よかろう」 しれっとした態度でこう言い返すと、優男は逆ににやけながら俺を見据えてきた。 「はぁ?決闘?」 優男は薔薇を此方に向けながら仰々しくこうのたまった。おいおい、二股掛けて破綻した自業自得だぞ? 「その通り君に決闘を申し込む、君は平民で、あまつさえ使い魔の分際でこの貴族であるこの僕を侮辱し、二人のレディーをも泣かした!」 格好よく決めたつもりなのだろうが、正確な状況を言い切ってやる事にする。 「泣くどころか、ブチ切れてたぞ」 そう言うと周囲は爆笑に包まれた。だが、それに怒りに油を注いだのかこの優男はやる気マンマンだ。 「決闘ねぇ……言い方は格好いいが、要は 殺 さ れ て も 文 句 は な い んだよな?」 真顔でこう言うと、一気に緊張する。さっき嬲ったデブなんか、奇声を上げて逃げていったぞ。 「かっ…覚悟はいいな!?広場で待っている!」
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コンパニオンに1000$、宿代で700$だけ支払って酒池肉林と言えなくも無い思いをしたのは気のせいだろうか。コンパニオンの 姐さん達は多分報酬とは関係無くギーシュを可愛がり、深夜まで遊んでいた。彼女達にとってギーシュが可愛かったのと、それ程渡された 報酬が多かったのだろう。俺は酒を飲んで適当に楽しんで遊んでいた。 「お兄さん今日はありがとう。楽しかったし、こんなに頂いちゃってなんだか悪いわね」 「いや、礼を言うのは此方も同じさ。楽しかったよ」 遊び疲れて(遊ばれ疲れか?)安らかな寝息を立てているギーシュを横目に、コンパニオンの姐さん達に礼を言う。この姐さん達が居な ければ、恐らく逃げ切れなかっただろうしな。さて、俺も今日は寝るか……。 ――翌日。 「さて、ほとぼりも冷めた様だし、階下で朝食食べて学院に戻るか」 「ああ……なぁトニー、昨日の事はモンモランシーには内緒にしてくれ……」 「気にすんな、俺はそんな事言わんよ。お前は、昨日の経験をモンモランシーに如何に生かすかだけを考えてれば良いんだ」 荷物らしい荷物と言えば俺の武器と昨日の戦利品の金、この優男のいかがわしい秘薬だけなので、出立の準備にそう時間がかかるものでは ない。入浴して匂いを消してから宿を出る事にする。 ――ギーシュを連れて町の外へ出ろ 少々薄暗く日はまだ昇ってはいないが、朝食を済ませて宿を出た。正直街中を長居は出来ないだろう。このまま街を出てしまえば終る。 俺は関係無いが、朝帰りは何かと問題もあるだろうが、まぁ今回はコイツの自業自得だ。 やはり中世の時代の所為だろうか、中心から離れると人の数と建物の数は段々と寂しいものになっていく。サツの数もリバティーシティ程 では無いのも気楽な一因だろう。 「……マジかよ」 「……どうしたトニー……うあっ」 町の外に出ると、タイミングを合わせるように目の前にシルフィードが降りて来やがった。 「ちょっと何で朝帰りなのよ!!」 降りて来た瞬間、ルイズの喚き声が聞こえる。後ろと前にキュルケ、タバサとそうそうたる姉ちゃん達が一堂に会しているのは驚いた。 「凄いわね、男二人で朝帰り。何やってたの?」 「色々遭ったんだよ、このバカの所為で」 面白半分にキュルケは俺に聞いてくるが、答えられる事はこれ位なものだ。実際、ほとぼり冷ましに宿にいたと言っても、面白くも無かろう。 ましてや女を買って遊んでましたなどと言える筈も無い。 「で、お前らはどうして此処に?」 『あんた達を探しに来たんでしょうが!!』 ルイズとキュルケは声を合わせてこう叫ぶ。やはりこの二人は本当は仲がいいんじゃないのか? 「……御飯。私たち何も食べていない」 すっかり存在感が無いが、タバサが小さな声でこんな事を言う。なるほど、こいつら何も食わずに探しに来たんだな。 「私も夜も朝も何も食べてないわ……トニー、モーニング用意してよ」 「はいはい、分かりましたよお嬢様」 男二人女三人で結構飲み食いした筈だが、掛った金額は200$にも満たなかった。おかしい、かなり飲み食いしたのだがな……。まぁ、 これら金は全て泡銭だからな。出所は言えんが。 「それにしてもトニー、お金はどうしたの?」 「そりゃ、お前やギーシュの『仕事等』で得た金だよ」 それにしても奇妙な光景だな、俺以外全員ガキときたもんだ。だがこれで馴染んでしまうんだから、末恐ろしい。こうやって信用を得ながら 元の世界に帰る算段は付けないといけないのだが、結構危ない橋は渡るものの元の世界よりはある意味安全なので、骨休みになれば良いな。 「足りないなら、遠慮しないでまだ食べていいぞ。俺の奢りだ」 「……本当?」 「構わないさ、シルフィードに乗っけてもらって礼もあるからな」 ……どうして、朝食を食べに来た筈なのに日が傾きかけてるんだ?結局、俺があんな事を言ったのが原因だったのかは俺は知らないが、 朝食を食べた後、茶会を始めたのだこのお嬢様方は。朝食を喰いに来たんだぞ?……仕様がないので、俺もそれに付き合って調子に 乗ってチーズを口にしながらワイン飲んでいたのだが、気が付いてみると夕日が差し込んできてやがる。 「タバサ!……ちょっとタバサ!!食べてないで外を見なさい!」 ルイズとキュルケ、そしてギーシュは外を見て少し顔面が蒼白している。もう夕暮れ時なのだ。 「……学院に帰らなきゃ……」 その後、シルフィードを全力疾走させ(5人乗ってるので多少スピードは落ちているが)学院にとって戻ったのだが、この二日間を併せた これらの情景に4人はこってりと油を搾られる羽目となった。そして俺は、何も無かったかの如く、食堂で豪勢な食事にありつき、何時も の様にマルトーとワインを口にしていた。 mission completed! $1500
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「アメリカ最悪の都市」・「Great place to leave(脱出するのに最適な場所)」等と呼ばれている リバティーシティだが、俺らのような人種には実に過ごしやすい。日本か何処かでのことわざでは、 「住めば都」そのもので、特にポートランドはママのレストランもあり、中国人ギャングのトライアドと ナワバリ争いをしている事を目を瞑れば気に入ってはいる。だからとある『大物著名人』を消して リバティーシティをずらかり、ほとぼり醒まして早く戻る事を望んでいる。 Grand Theft Auto Liberty City Stories 0 トニー・シプリアーニがルイズに召喚されました。 リバティーシティを離れたものの、逃亡先でも人間には生活はある。例え食事の用意をする為だけの外出で あっても、何時襲われても対処出来るようにピストルにウージー、ショットガンはたまた火炎放射器、手榴弾、 さらにはM-16、スナイパーライフル、ロケットランチャー(!)とそれらの弾丸をしこたま持って外出する 必要が生じてしまう訳だ。逃げる時に乗っていたレオーネ・センチネルに積み込んで常に行動していた。 この不思議な経験をした時も、丁度こんな時だったのを覚えている。俺は雨が降り視界が悪い中をセンチネルを 駆って走る。目的は他愛も無い話で、食事を外食でぱっぱと済ませて隠れ家に戻る途中……まぁ視界が悪かったし はっきりと確認出来た訳ではないが、鏡のような物体、それも見た事も無いような特大サイズを見た気がする。 気がすると言うのも、ほんの一瞬視界に入った感覚しかなく、反射的に急ブレーキを掛けたわけだから。 最後の最後までぶつかったかどうかの感触を味わう事は無かった。それどころか少々気を失ったらしい。しかし 目を覚ますと自分では想像できない光景が広がっていた。センチネルの窓越しから見ると、清々しい位の青空に 良く整備の行き届いた緑の芝生、何よりも四方を取り囲んでいる中世の城のような城壁。特筆すべきは全てに 於いてそれが生活感があり、加えて全て芸術的な域にあるところ。 「……どう見ても、アメリカじゃあないな……」 自分とは思えない程に目玉を引ん剥いて眺めていた。それ位、この光景が真にもって現実離れしている。しかし、 センチネルその他諸々は変わりなく、自分自身にも怪我が無いのは驚いた。 「×××××××××!!」 だがそれ以外にもおかしな異変はあった。車の周りには人、人、人。しかも喋っている言葉は英語でもイタリア語 でもない意味不明で何を言っているのかは分からなかった。加えて服装もおかしい。全員が黒いマントを羽織り、 まるで中世のような服を着ているのかと思うが、それにしては現代じみていて奇妙な感じをさせる。何とも目立つのが 褐色色のやたら胸を強調した女で、色っぽさはあるものの何故か青臭い雰囲気があるのがギャップがあった。 「……×××……×?…×…×××××……?」 最もおかしいのは目の前には地毛なのかウィッグなのか判別つかないピンク色の髪をした女……と言うには少々無理がある 少女がM字に股を開いた実にはしたない格好で尻餅を付いており、何か呟きながらこちらをじと眼で睨みつけていた。 周囲を見渡すと聞こえてくるのは大凡笑い声であり、雰囲気からしてこのピンク色の髪をした少女を笑っているのだろう。 轢いた覚えも無いし睨み付けられる覚えも無いので、試しに強くクラクションを押してみた。 「×××××!!!」 するとどうだろうか。このピンク色の髪をした少女が、素で驚いた様子でまるでコメディーのドラマのようにいい感じに 飛び跳ね、笑い声を上げていた周囲の人間も驚きの声に変わる。この連中は車と言うものが分からないのだろうか? 「×××××××××××××××××××××?」 「×××××××××××××××××××××!!」 それも束の間、このピンク色の少女は気が強いのか何なのかは定かではないが、褐色色の女に何か言われたこのピンクの少女は、 訳の分からない言葉で捲くし立て、センチネル、如いては俺の前で喚き散らしている。流石にここまで来るとイライラしてきた 気の短い俺はピストルを手に持ち、おもむろに外に出る事にした。 ――…一方のルイズ。 「……あんた……誰?…ど…どこの平民……?」 使い魔を召喚してみたら、訳の分からない鉄の塊と……平民ってどう言うことよ……おまけに腰抜かしちゃったじゃない!! ―――ブッブ――!! ひぃっ!!!何なのよもう!!けたたましい音を鳴らして!! 「お…大見栄切っただけあるわね……へ…平民を呼び出す……なんて」 キュルケはこの鉄の箱の中にいる、少々声を切らしているがちょっとハンサムだけどいかつい男を一瞥しながら私を馬鹿にする。 こいつもけたたましい音に驚いたのだ。 「ちょ…ちょっと間違えただけよ!!」 「さ…流石……《ゼロのルイズ》……期待を……裏切らないや」 ……うるさい、うるさい!!ビビりながら喋るんじゃないわよ!!Mrコルベール、もう一度召喚を…… 「おお!男が出て来たぞ……!」 奇妙な声があがると鉄の塊からいかつい男が出て来た。手には何か持っている。べっ別に…こ…怖くなんてないんだからね!! 「……なんなんだここはよ……よく見りゃガキばっかじゃねぇか」 場違いとも思える程に清々しい空気に包まれつつ俺は車から出ると、意味の分からない言葉を口走りながら周りの群集は何か 異端な物を見るような目で見据えている。まったく訳が分からない。正直言ってヤバイと言えばヤバイこの状況。ガキ共轢いて とっとと逃げるなんて選択肢もあったが、状況把握の為に車から降りてしまった。 「……仕方ない、あのオッサンに聞いてみるか」 群衆の中心に禿げたオッサンがいる。これもまぁ妙な法衣を纏ってるな……おまけに妙なバット持って……司祭か?まぁいいさ、 多分こいつら束ねている奴だろう。詳しく話を聞いてみようか。俺は歩みを進め、禿げたオッサンの所まで進んでいく。その時 まるでモーゼの様に道が開いたのは多少なりと驚いた。 「俺はトニー・シプリアーニ。なぁここは何処なんだ?」 だが、この禿げたオッサンも何を言っているのか分からなかった。本気で頭を抱えて困惑する俺だが、周囲ではどんどん状況が 流れている。その一つは俺のレオーネ・センチネルをガキ共が取り囲んでいるのだ。取り囲んでいるだけではない。物珍しい様子で 舐める様に見ているのだ。それだけではない。頭を抱えている横でハゲに説教されたピンク少女が、何かを呟きながら棒切れを オーケストラの指揮者の如く振り回してる。 『か…感謝しなさいよね……貴族にこんな事をされるなんて…一生無いんだから』 「よ…寄るなっ!!」 頭を抱えている俺を見上げながら何かを呟く少女。思わず俺は声を出し、持っているピストルを少女に向ける。初めての経験だ。 俺はレオーネファミリーに入って子供に銃なんて向けたことなど無かったが、どうしてだろうか、何かの悪寒だろうか、気が付い たら銃口を少女に向けていた。 「これ以上近寄ったら、子供でも撃つぞ!」 状況の変化を察知したピンク少女はジリジリと間合いを取るが、その歩みは間違い無く俺を捉えている。これが大人なら躊躇無く 撃っているだろうが、撃てない。やはり子供と分かってしまうと、幾ら俺でも二の足を踏んでしまうのか。 「!!」 だがこの瞬間が最悪だった。何と言うか俺の直ぐ横で行き成り何かが爆発、爆風で前に吹っ飛ばされた。リバティーシティでも エイトボール絡みでこんな爆発結構日常茶飯事だが、これはない。まるで狙い定めたように、俺にそうさせるかのようにスタントで 使うような地を爆破するなんて到底想像も出来なかった……ボディアーマーのお陰で多少助かったが……やれやれ、生憎こんな手を 使うギャング、リバティーシティじゃ見たことねぇしなぁ……エイトボールでもここまでは無理だぜ……。 ――…一方のルイズは。 「なんて事を!!」 この男は私に何かを向けながら叫んでいる。これが何かは分からないけど……ハンサムなのは認めるけど……どれだけ年上よ……。 しかも人相悪いし……うう、こんなのにファースト・キス捧げるなんて……。この際だから黙らせ、動かなくさせる麻痺の魔法を 掛けたつもりが、この男の足元を爆破してしまった。また魔法に失敗してしまったのだ。巻き起こる爆笑……と思いきや、巻き 起こってるのは悲鳴と怒号だ。 「やってくれるぜ『ゼロのルイズ』!!自棄起して使い魔殺しに掛かるんじゃないよ!!」 「これは退学もんだぜ!」 爆風で飛ばされた男にMr.コルベールと数人の人間が駆け寄り、急いで治療に取り掛かった……筈だが、何故か彼を見て全員首を 傾げてる。まぁ、死ななかっただけ良かったじゃない。 「良く無いわ!」 「痛っ!!!」 痛っ!!!いたたた……間髪入れずにキュルケが私に拳骨を落としやがった。手加減しなさいよ……脳天直撃して……いてて……。 見なさいよ……あの男気が付いたじゃない……うう、まだ頭が……。 「……衝撃はボディアーマーで助かったが、もう役に立たんな……」 爆風で吹っ飛ばされた俺は気を失い、中庭のど真ん中で寝かされていた。周りには黒いマントを着た幾人かの子供とハゲが俺を 治療している。幸い殆どボディアーマーで防ぎきった為に怪我が無く、擦り傷ばかりな事に子供達とハゲは首を傾げている。更に その横では、ピンク少女が多分大人なのだろう幾人かの人間に囲まれた挙句日本でいう所の『正座』で座らされ、説教をされていた。 「大丈夫ですか?」 ハゲは気が付いた俺にこんな風に声を掛けた……待て、なんで言葉がわかるんだ?さっきまで雑音にしか聞こえなかったのだが。 「怪我はボディアーマーで何とか防いださ……でもだ、何故言葉が通じてるんだよ……さっきまで通じてなかったぞ」 空を見ながら喋る言葉は何とも格好悪い物だ。気の短さもあってつい口をついて出たのだろう。だが、そんなうわ言のような言葉も このハゲは聞き漏らさなかった。 「魔法を使ったんですよ」 このハゲはっきり言い切った。魔法?馬鹿な事言うな。シンデレラや指輪物語じゃねぇんだぞ。 「もう一度、頼む」 「なるほど…えーと」 「アントニオ・シプリアーニ……世間からはトニー・シプリアーニと呼ばれてる」 補足するように俺はこう答えると、彼は割と穏やかな様子で説明を続けた。 「Mr.シプリアーニ、恐らく貴方の世界では魔法が存在しないのでしょう……しかし、我々の世界では魔法は普通に有りますからな ……ミス・ヴァリエールが間違った魔法を使って貴方の足元を爆発させたのも、魔法」 ヴァリエール……多分あのピンクの少女か……それにしても全く末恐ろしい話だな……この連中は本当に魔法を信じているらしい。 この世の中、そんなもの有ったら苦労しねぇぜ。 「……なぁ、最初下りた時、真っ先に聞きてぇ事があったんだが……えーとあんたの名は?」 「私はコルベール。この学院の教師をしている」 ここは学院だったのか……それだけでも驚きだ。しかしそれを考えると、この先の質問は心底恐ろしく感じてくる。 「Mr.コルベール、ここは何と言う州で何と言う町だ?」 「州……とは言いませんが……ハルケギニア大陸トリステイン王国首都トリスタニア。因みにここはトリステイン魔法学院です」 すらすらと出て来た以上、これは現実なんだな……実感させられた。背中に気持ちが悪い程汗をかく。しかし何だって俺がこんな訳の 分からぬ場所に……いや待て、そもそも何故俺はこんな場所に居るんだ? 「核心的な質問をするが、俺は何でこんな所に居る?」 「な…何!?すると何か、あのピンクガキが俺を引っ張って来たって言うのか!」 足を中心にピリピリと痛みを感じるが、思わず起き上がってしまった。要はこのコルベールが言う所には、俺はこの奇妙な世界に言わば 《強制的に》あのピンクガキに吸い寄せられたのだ……フルネームをルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとクソ 長い名前らしいのだが、俺の腹の立ち具合から併せ持って今はピンクガキと呼ぶ事にする。そう言えばこのコルベールが言うに『貴方の世界』 何て言い方していやがったな……! 「起き上がってはいけません!!」 「うるせぇ!」 俺はよろよろと立ち上がり、正座して説教されているピンクガキを後ろからウェーブの掛かったピンクの髪をまるで兎の耳を掴むかのごとく 引っ張り上げた。 「痛っ!!痛い!!使い魔の分際で主人の髪引っ張るんじゃないわよ!!」 使い魔?主人?とうとうヤキでも回ったかこのガキ。余りに口数の減らない事に腹を立てた俺は、このピンクの髪をまるでロープでも持つ ように拳でぐるぐる巻きにして掴み、更に引っ張り上げた。 「訳のわからねぇ事抜かしてねぇで俺の質問に答えろピンク……俺に何をしやがった?」 「ルイズよ!イタタタ!!……うう……何と言う……イタタタ!!どうやら…それなりの……『躾』が…必要……ね……イタタタタタ!!!」 「いかん!!全員で止めるんだ!!」 余りにもあんまりなこの状況に、コルベールはたまらず場に居る男女種族不問の連中全員に指示を出し、何人居るのか分からなかったが、 全員が俺にしがみ付き必死にピンクガキから離そうとしている。所々噛み付く奴まで現われ、堪らず手を放してしまった。 それから暫く喧騒が続いたが、結局コルベールの指示で俺と半べそのピンクガキ、コルベールを除く全員が飛ぶなりなんなりして帰っていった。 ああ、魔法が本当にあるんだなと心底実感させられた。何せ青い色で短髪のガキなんて、書物に目を通しながら涼しい顔して飛んで行ったしな。 しかしながらそれ以上に不快なのは俺はこのピンクガキ……いや、このルイズの『使い魔』に成り下がっているらしい。手の甲には訳の分から ない紋様が刻み込まれており、悪夢はとうとう現実のものになってきてしまったようだ。加えて実に余計な知識だが、キュルケが言う所では契約は キスなのだという。だが、あまり嬉しくねぇよなぁ……。 「確認するが、元の世界に帰る術は今の所無いんだな?Mr.コルベール」 「はい、残念な事にMr.シプリアーニ」 『LOUISE OF ZERO......Give Me Liberty』 辺りはまるで絵に描いたように素直にすばらしいと思える夕焼けに彩られていた。この世界に来る前に飯を食ったばかりだった筈だが、自然と 腹が減る錯覚を感じる。偶然にも来ちまったとは言え、帰る術の無い今暫くはここでの生活を余儀なくされるだろうから、今後の事を取り敢えず コルベールに尋ねてみた。 「仕方ない。Mr.コルベール、取り敢えず当面のねぐらが欲しいのだが」 「実は、メイジと使い魔はほぼ一緒に行動する事が常で、ミス・ヴァリエールと同室と言う事で……」 冗談じゃねぇ!!俺は何か、貧乏クジ引きまくってるなぁ!! だが、今にも泣きたそうなのは俺よりも寧ろこのピンクガキ……いや違う、ルイズだろう。だが俺としては知ったこっちゃねぇが。俺はこの ルイズを無視してコルベールと話を続ける。 「この車を納めるガレージ……いや、倉庫なんかあるか?」 「たいしたものは無いが……その『クルマ』に乗せてくださったら考えましょう」 どうやらコルベールはクルマに興味を持ったらしい。本当にこの世界には車なんて存在していないんだな。それ位で引き受けてくれるなら 安いものだ。 「Mr.コルベール……私はこれにて」 がっくりとした様子でルイズは体位を反転して帰ろうとする。あれ?おかしいな、こいつ魔法使いだろ?さっきの連中見たく飛んで…… ははぁなるほど……こいつ魔法からきしなんだな。 「乗れよ」 「!?」 俺の言葉に少々嫌な方面で反応した。ああ、こいつ俺が髪を引っ張ったのまだ根に持ってるな。 「どうせ戻る場所は一緒なんだ。手間じゃないだろ」 「べっ別に乗りたいなんて言って無いからね!!」 素直じゃねぇな!捨て台詞の如く言い放った割にはずかずかと乗り込んでくる当り、こいつ本当に捻くれているなと実感した。先が重いぜ。
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「何勝手に決闘の約束をしてるのよ!!」 この状況に真っ先にルイズが蒼くなりながら噛み付いた。 「喧嘩売ったのはあの優男だぜ?」 だがルイズは俺の腕を引っ張ってこの場を離れようとする。 「あんた何も分かってない!貴族と喧嘩して、怪我で済めばいいほうなんだから!!……今ならまだ間に合うわ、ギーシュに謝るのよ!」 「謝る必要なんてねぇさルイズ……『殺られる前に殺れ』、これが俺たちの生き残る唯一の手段だ」 そう言って手を払うと、 「俺がまともに立ち合うと思うか?格好良くああ言っていたが、本当の命の駆け引きがどんなものかを身をもって教育するだけに過ぎんさ」 「もうっ!!使い魔のくせに勝手な事ばかり!!」 さてどうやって死なない程度に痛めつけ、且つ卑怯と呼ばせないか……俺は急いで一度ルイズの部屋に戻り、来た時のカジュアルな服に着替え、 スナイパーライフルと手榴弾、火炎瓶と棍棒を手にとり、そのまま引き返した。 ――ギーシュを殺さない程度に痛めつけろ。卑怯と言わせない為に姿を晒してから攻撃しなきゃダメだ。 約束の広場に行くと広場の真ん中にギーシュが一人でおり、ギャラリーは一歩離れた場所で高見の見物である。この状況ではライフルは 使えまい。メイジが相手なら常識で考えたら死ぬ。かと言って手加減しなければこいつが死ぬ。仕方ない、手榴弾と火炎瓶を直ぐに出せる ようにして奴の前にでる事にした。 「逃げずに来たのは誉めて……アッ―――――――――――――――――――――!!」 口を開いた瞬間俺は瓶をギーシュ向って放り投げ、一気に後ろに下がる。瓶が割れた瞬間炎が吹き出て中心にいたギーシュはマントから着火して 火だるまになった。 火だるまになったギーシュは地を這いながら火を消そうとする。今まで談笑まで聞こえた雰囲気だったのが、一気に蒼ざめて悲鳴すら聞こえて 来た。宛ら地獄絵図ともいえる状況を黙って見ていた俺だが、身構えるのを止めなかった。答えは簡単、こいつがメイジだからだ。 「……何だこれは」 懸念は直ぐに現実の物になる。火だるまになりつつ魔法の詠唱を完了させたのだ……根性あるじゃねぇか。いやいや……俺の目の前に青い色 した女型の人形が現れる。こんな物を見させられると、ここが自分の生きている世界じゃないと実感させられる。 「……ワ…ワルキュ……ーレ……こ…いつを……生き……て返す……な」 イカレてやがる光景だぜ、まったく。 「ぐおっ!」 その刹那、人形の鋭いフックが俺の胸にヒットする。殴られた感触は……まぁ……金属で殴られた感覚だな……これは……。怯んだ瞬間に 次の手が俺の腹に入る。瞬間呼吸が厳しくなるがまだ立っていられる。だが今度は中段回し蹴りが俺の脇腹を深々と捉えた。 「トニー!!」 聞こえてくるルイズの絶叫。シエスタは横で背を向いて向いている。俺のような人種には日常茶飯事な光景だが、貴族のような連中や堅気の 人達には衝撃的な光景だろう。やってくれるぜ……リバティーシティーでも素手で此処までやられたことないぜ。 「ふはははは……貴…族である僕……達が、魔法使って……闘うなんて……当然じゃ無いか……」 やっぱクレイジーだぜ、まともにこんな人形と戦っていたらバラされかねん。俺は一気に後ろに下がり、ポケットから手榴弾を取り出し、 再び人形に向って前進すると口で安全ピンを抜き、際どい位置に手榴弾を押し込んで急いで後退する。 「逃げるのかい?……ふはは……あ?」 ドゴオオォォォォォォォォォォオオン……!! 後ろに下がった俺を追いかけたこの人形は手榴弾が炸裂し、人形が空中分解したのだ。火だるまになった自分が見ている前で人形が爆裂した 様は衝撃的なものだろう。跡形もなく消え去った人形を見据えて『信じられない』と言う表情を浮かべる優男。俺は全身全霊の全力疾走で 優男まで駆け寄ると半分焦げた持っているバラを蹴飛ばし、腹目掛けて追い討ちの足蹴を食らわせ、一発目以降執拗に喰らわして行った。 「バカ、見てないで止めるんだよ!!」 キュルケと言う姉ちゃんは結構しっかりとした判断力を持っているらしい。俺が追い討ちを始めた直後危機感を感じたのか傍観者の面々に こう呼びかけて止めに入る。これは後から聞いたことなのだが、召喚された時にルイズの髪を引っ張り上げた時の大よそ倍数の人間が俺に 飛び掛るなり羽交い絞めにするなりして止めに入り、騒ぎが収まった頃には男女問わないメイジ達がボロ雑巾になっていた。 正直な所、バラの杖を蹴飛ばした以降の記憶は曖昧なものだが、シエスタが言うにはずっと手の甲の紋様が光っていたと言う。 今回のおまけ mission completed! $100
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俺は昨日良い感じでワインを飲みルイズの部屋に何食わぬ顔で戻ったが、ルイズは深夜まで説教されていたらしく、その顔は不機嫌 そのもので疲れ果てていた。取り合えず余波を受ける事を避けたかった為、コルベールから受け取った毛布にくるんで寝ていた。 いや、正確に言えば寝た振りだがルイズは心底落胆していた。寝言は恨み言ばかりでまぁ無理はない、俺を呼んじまったからな。 翌朝、俺はルイズより先に起きてレオーネ・センチネルの車庫まで行き、マフィアの正装とも言われている黒いスーツを取りに行く。 所謂レオーネスーツと呼ばれているマフィア独特のものだが、着替えて部屋に戻る。 「ルイズ、朝だぞ……起きないとまずくないか?」 部屋に戻ると、ルイズはまだ寝ている。 「…なによぉ……ん!!?」 寝惚け眼のルイズは俺を見ると、ギョッとした様子で驚いていた。昨日寝るまでカジュアルでだらしないと思える服装の男が、朝 起きると恐ろしくびしっと決めている様は驚くに値するのだろう。 「え?え!?」 魔法が満足に使えない、呼んじまったのが俺、それに纏わる学友の嘲笑、そして昨日の騒ぎだ。多分面子も潰れプライドも自信も 恐らく深く傷ついたに違いない。本来知ったこっちゃねぇ事だが、流石に可哀相になってきたので今回は彼女の顔を立てる事にする。 「な…何!?どうしたのよ!」 「いや、認めたくはねぇが俺はお前の使い魔だろ。おかしな格好では面目がたたんだろ?」 ぶすっとした表情だが、その表情は少しばかり自信を取り戻したようにも見える。 ルイズの後を付いて来るレオーネスーツを着ている俺は、学院内で相当目立っていた。昨日の騒ぎもあったのだが、生徒はルイズと 俺が通り過ぎると、一歩離れて遠くから眺めるようになった。まぁこれには俺が睨みを利かせながらと言う理由もあるが。 「……なんでみんな私たちを遠くから見るのよ」 「さぁな、俺達が嫌でも目立っているからだろ」 まぁ、大方それは俺の所為だろう……そんな状況が教室に入るまで続く。ルイズは目立たないように後ろの席を取ると、俺は椅子を 後ろに引き、一歩下がった位置に腰を落とし、足を組んで座っている。 「……ちょっと、行儀悪いわよ」 「仕方ないだろ、隣に座ったらそれこそおかしいだろが」 だがこんな普通かもしれないやりとりでも、他の生徒はどう言う訳か俺達を見詰める。やっぱり目立っているのかと言うのを実感 させられる一瞬だ。それでもルイズは静々とノートに書き物をしているのはこいつが努力家なのかと考えさせられる。 暫くして授業が始まるとシュヴルーズとか言う少々豊満な女が教壇に立つと、大人しい物腰で話を始める……と言っても、これらの 話は俺たちにしてみると荒唐無稽と言うか何と言うか、おかしな物ばかりなのだが、普通に聞いている分なら幻想小説か何かの物語を 読み聞かせているようにも聞こえて飽きない。そうこうする中で、生真面目な表情を浮かべてルイズが教壇の前に歩む。試しに やってみなさいというシュヴルーズの言葉に答えたものだが、俺は見逃さなかった。この女の表情が一瞬歪んだのを。そして教室中が 一瞬にして緊張に包まれた事を。 「なぁキュルケ、なんであの女不安そうに見てるんだ?」 「あ…あれはね……トニーを呼び出した前日に、錬金の授業で教室をふっ飛ばしたからだよ!」 俺は聞きたくも無い既成事実を聞いてしまったようだ。まぁ、魔法を満足に操れないと言う事を考えれば予想に足る事なのかも知れ ないが、それでも多少の恐怖がある。現に俺を強制的に呼び出した昨日、ボディアーマーふっ飛ばしたからな。 だがそのミスは可愛らしい程呆気ないものだった。要は爆竹を一つ二つ破裂させた程度のものだったからだ。しかしながら、教室から ルイズに対する野次や嘲笑、嫌味、からかっている声など様々な言葉が飛び出る。 「うるさい!うるさい!!」 そんな野次を気の強い彼女は生徒たちに背を向けて反応、これにはシュヴルーズはどうしたものか分からず狼狽している。なかでも デブとも言える奴は余計にルイズに野次を飛ばしていた。 「デブ……もうそれ位でいいだろ、授業の邪魔だ……」 気が付いたら、俺は席を立ちデブの胸倉を掴んで自分の目線に届くように持ち上げていた。一気に場が凍りつき、ルイズに野次を 飛ばしていた連中はこの光景で黙り込む。ルイズもこの光景で反応が止まった。 「な…何するんだよ…平民……」 「反省が足りんようだなデブ……俺が教育してやる」 手に持っていた杖で何かしようとしたが、鳩尾に膝を入れると呆気なく杖を手放した。そして襟首に持ち替えると、俺はずるずると 教壇までこのデブを引っ張り、呆気に取られているシュヴルーズに一言こう言いおいた。 「ミス・シュヴルーズ、この豚少し借りるぜ」 そう言った後ずかずかと表に出る。シュヴルーズの表情は変わる事無く、俺を見送った。 「なっ…何するんだよ平民!」 「まだ自分の立場が分かってないようだな」 教室から引っ張り出すと、俺はデブを壁に叩き付けて額にピストルを突きつける。 「動くな、動いたら命は保証出来ん……俺が引き金を少し撃つだけでお前は死ねるぜ」 だが、ピストルを知らないこいつはやってみろと言う程、ふてぶてしい態度を取るが、その刹那俺は耳のスレスレを狙って発砲、それが 脅しではないと言う事を実証すると、デブは全身面白いほど震え、脂汗を滝のように流して指一本動かせる状態ではなかった。 「人の失敗を笑えばそれだけ敵を作る。あんまり余計な事をするな……」 多分これでは脅したりないと感じた俺は、こう付け加えた。 「……そうだな、俺たちマフィアの制裁方法にはこんなものがあるな……『ある晩にお前が消えました、探しても出てきません。 翌日湖畔にお前さんの水死体が浮かんでました』とか、まぁいろいろあるが……どうするよ?」 この一言が効いたのか、このデブは首を横にぶんぶんと振りながらズボンを濡らし、回廊がびちょびちょなのが分かる。 「漏らしたのか……恥かしい奴だな。ほら、寄宿舎に行って着替えてこいよ……」 「ひっ…ひいいいいいぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃいっっ!!!」 抑えを取り外すと、デブは半狂乱になって寄宿舎向かって全力疾走で駆けていった。だが問題は一つ、貴族が聞いたことも無いような 物騒な言葉と、聞いたことの無い銃声、デブの半狂乱の悲鳴にルイズのクラスだけでなく、他の生徒や教師も様子を見に来ていた。 「少しやりすぎたかな……ルイズすまないな、俺は邪魔らしい。見学も兼ねて学園を見回ってるよ」 こう言って翻る俺だが、ルイズの表情は不思議と不機嫌ではなかったのが印象的だった。
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第14回の始まる前のオマケ。 ――隠れ家にピストルが届いた。 「……誰がどうやって送ってくるんだ……?」 第14回 ――隠れ家にデルフリンガーが届いた。 多分使い道はないだろうが喋る剣『デルフリンガー』を貰った俺は、多少の疲労感はあったものの眠れない為に学院内を散策していた。要は 暇なのだが結構面白い物を見れる。やはり思春期な連中を抱えているこの学院は、そこら中でサカリがついてる連中を目にする。そんな中、 この間の優男が頭を抱えている。極めて自業自得だがモンモランシーに振られ、俺にボロ雑巾にされてから自信が無くなり、女っ気がなくて インポ寸前だと聞いたが、これは噂以上に重症かもな。 「よう兄ちゃん元気無いな、ワインでも飲むか?」 「ゼロのルイズの……結構……」 この間のような覇気は感じられない。 「……あんたの名前……トニー……シプリアーニだったか……」 「ん?」 何か言いたげな様子だが、取り合えず此方から話を振るのは止めておく。 「モンモランシーと……」 「それ位自分で尻を拭えよ。かえって泥沼になるぞ」 最後まで聞かずに断言すると、縋るように優男は俺に抱きついてまで哀願する。 「お願いだ、僕に少し力を貸してくれ」 「知らん!ルイズに聞け!ルイズに『トニーを少し貸して』と聞いてOK出したら手を貸してやる!」 どうしてこいつ等はこうも下半身に素直なんだ!本当に自信なさ気だが、俺がこう言い切ると優男は頷いてルイズの部屋に歩いていく。 本当に聞くつもりなのか?分からないが。付き合うとろくな事が起き無そうなので、俺は早々に退散。今は隠れ家(ルイズの部屋)にも 戻りたくは無いので、今夜は暫く学院内を煙草でも吸いながら散策する事にする。しかしながら、広い施設だよな……まるで城塞だぜ。 暫く何の気無しに学院内を歩いていると、絶対中世じゃないなと実感できるような、下手すりゃ売春婦にも見えなくもないミニスカートを 穿いたポニーテイルの女とすれ違う。少々と年増だが十分色気のある女だった。この学院の関係者だろう。 「トニー・シプリアーニ」 すれ違った刹那、女は俺の名前を口にする。 「俺の名前を言ったか?」 「ええ」 振り返ってこう言い置くと、女は即答でこう返す。何とも含む意味を感じて警戒をさせてくれるのだが、この女は微笑みを浮かべて 俺に近づいてくる。いや、厳密に言うとどうにもこうにもキュルケ以上にいやらしい意味を込めた誘惑だった。何かある、こう感じた 俺は少々警戒した仕草を見せて身体を離す。 「あら?貴方は女には興味ないかしら……?」 同性愛者でもない限り、男が女に興味が無い訳ないだろ……こう言う誘惑と色香には惑わされねぇだけだ。 「そんな事はない」 「それとも、逞しい殿方の方がお好みかしら?」 「Fuck you!!」 このアマ舐めた事抜かしてんじゃねえ、学院関係者じゃなければマジで殺してる所だ。 「ごめんなさい、ごめんなさい、悪気は無いの。ふふふ……今日はごめんあそばせ」 空気を素早く読んだのか、女はこう言い置くとそのまま颯爽と去っていく。何かしらの意図がありありで極めて疑わしい接触は気持ちが 悪い。これならガキ達や普通の奴等とつるんでいた方が余程楽しいわ。気分が悪くなったので学生等の寄宿舎に戻る事にした。 寄宿舎に戻れば戻ったで、そこら中にさかりのついた連中が乳繰り合っている。全く下半身に忠実な連中だ。こいつらを見て見ぬ振りを して煙草を咥えながら歩く。今の所は優男に会わないようにルイズに部屋に帰る事にする。 「……ん?」 煙草を吸いながら歩いていると、俺の上着を引っ張る奴が居る……さっきの青い髪で短髪の眼鏡を掛けた姉ちゃんだ。 「さっきの姉ちゃんか、俺に何か用か?」 だが、横にはキュルケまで居る。彼女の補足をするようにキュルケはこう言う。 「一度で良いから、こっちに来た時に乗っていた『クルマ』ってものに乗せて欲しいんだけど、良いかな?」 「ああ、問題ないぜ」 こんな可愛らしい事をお願いされるとは思わなかった。 「ただ、今日は夜だしもう遅い。明日、昼の間の方がいいと思うぜ。」 「それもそうね。明日にしましょう」 俺がこう提案すると、キュルケは青い髪で短髪のこの姉ちゃんを連れて帰っていった。先程のことを考えると、余程気持ちがいいと感じる のは気のせいだろうか。 「さて、俺ももう戻るかな」 ほとぼりが冷めただろうタイミングを見計らって隠れ家に戻ると、微妙な表情を浮かべたルイズと対角線の位置に座る優男の姿があった。 この野郎、まだ居たのか……。 「ほらギーシュ、トニー帰ってきたわよ。直接頼みなさい」 「いや、トニーがルイズに聞けと何度も……」 やれやれ……。
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「どうかしたの?トニー」 頭上でクエスチョンマークが飛来しているモンモランシーは何しに来たのか?と言いた気な表情で俺に尋ねてくる。 「ああ、ちょっと聞きたいのだが、ジュール・ド・モットって言う変……いや、貴族の所在を教えて欲しいのだが?」 首尾よく所在地を聞き出した俺は、『レオーネセンチネル』に荷物を取りに行く。多少なりと武装の準備するのと、 「これは持って行った方が良いな」 トランクに入っていた『カメラ』を持ち出して何時ぞやに盗んだ馬車に乗せ、日が昇りきらぬ内に学院を出立した。今回ばかりは流石に 貴族を巻き込むわけにも行かないので一人で行動するのと、地理的に詳しくないのでさっさと出発した方がいいだろうという判断だ。 「なんだあの二人は……くそっ随分と遠いじゃねぇか!」 だがその目的地は、多分話よりも遠い気がする。目的地に到着した頃にはすっかり日が暮れ、闇に包まれていた。歩いていかなくて正解だ。 闇に包まれている為に周りを完全に見通すことは困難だが、ヘンタイ貴族の住処はまるで砦で、横には城壁がうずたかくそびえている。 変態はリバティーシティにも大勢居るが、こう権力を握ってしまうと性質が悪い。俺は目立たない場所に馬車を繋いで武装して懐に仕舞うと、 門番の居る入り口に割と堂々と入っていった。 「何だ貴様は!?」 「俺は魔法学院から寄越されたトニー・シプリアーニと言う者だが、ここの貴族に用があるのだ、通せ」 強行突破も考えたのだが、『魔法学院』の名前を出したら割とすんなり応接間に通された。少々拍子抜けをしたが、五分後、本当にその ヘンタイ貴族は現れた。余裕に満ち溢れた嫌な空気を発しながら、俺の対になる席に少々無作法に座る。 「……此方も取り込み中だ、用件は手短に願うぞ」 ヘンタイ貴族は立ち振る舞いこそ貴族だが、顔立ち・衣類・喋りなど全てに於いて下品且つ変態の域に思える。これは相当美少女・美女を 手当たり次第に漁っていたのだろうと容易に想像がついた……多分、取り込み中と言うのも、女とイタしてる為だろう。 「まぁ大した事じゃないがね……好色趣味って言うのも人それぞれだが、金あるんだ。女はプロの方が良くないか?」 「!?……何が言いたい、トニー・シプリアーニ?」 遠回しに言い放った言葉に見事に釣られたこのヘンタイ貴族は、目の色を変えて言い返してくる。 「聞けば、職権乱用で女手当たり次第に漁ってるそうじゃねぇか、国家元首にばれたら色々とヤバいだろ」 「……いっ…言っている意味が良く分からんね……そろそろ遠回しで無くて直接用件を言ったらどうかね……!?」 俺の揺さぶりが効果を発揮し、このヘンタイ貴族は明らかに動揺している。正直情報は極々僅かだが、はったりもここまで効果を発揮すると 虚も実だ。俺はこのままの調子で攻めてみる事にする。 「今日、学院から連れてきたシエスタと言う平民が居るだろ?あれ、王宮と学院の立場を問わず評判の良い子でな、アンタが連れ去ったって 事が広まった途端、悪い噂が流れてるんだよな。大人しくシエスタを学院に帰した方が身のためだぜ」 「!?……な…何を言い出すかと思えば……そ…それは大丈夫だ。シエスタはうちの使用人なのだからな……シエスタを呼べっ」 ヘンタイ貴族はそう言いながら、シエスタを呼び横に連れてくる。すると、毒々しい原色の赤色のエプロンドレスを纏ったシエスタが、引っ張り 出され、言うに事欠いて彼女の首元に臭そうな息を吹きかける。シエスタもどうして良いのか分からないようなリアクションに困っていた。 「まぁ、こう言うことだ。安心して帰りたまえ、シプリアーニ」 「……本性見せたな貴族さんよ、俺はそのショットを拝みたかったのよ。これで、俺の確証は実になったと言う訳だ」 「!?」 勝ったと思っていたのだろう精神状態に冷や水をかけてやると、ヘンタイ貴族の顔がまるで茹でたロブスターの如く面白い位に真っ赤に染まった。 「使用人?おいおい、笑わせる事を言うな……アンタが根っからの女好きって言うのは周知の事実なんだよ。相手が平民だからって好き勝手な事 並べるな……お前みたいな粗チン野郎には娼館の女でも勿体無い、いや立ちんぼでも勿体無いわ」 行き成りの悪言雑言にこのヘンタイ貴族は思わず立ち上がる。恐らく、生まれてこの方こんな罵られ方はされたことないだろう。 「なっ!?貴様……誰に向ってそんな口を!!」 「アンタだ、ヘンタイ貴族。お前みたいな下衆野郎はな、下手に女に手を出して、翌日湖畔に水死体になって浮かんでる方がよっぽど相応しいわ」 この言葉がトドメになったか、わなわなと身体を震えさせながら身体を真っ赤にさせ、メイジのシンボルともいえる杖を手にする。 「言わせて置けば好き勝手……命が惜しくない様だな……そこへなおれ!!」 「良いのか?俺を殺せば、ヴァリエール家と魔法学院を相手に抗争を引き起こす事になるが、それでも良いのなら遠慮は要らん、殺しな」 俺は顔色一つ変えずにしれっと言い放つ。実際ヴァリエール家とそこまで深い仲ではないが、言ってやればそこそこ脅しにはなるだろう。 「止めて下さいっ!!トニーさん!!」 一触即発の状況で、シエスタは悲鳴にも似た声をあげる。 「シエスタ」 「伯爵、この者の無礼をお許しください」 シエスタは俺が殺されると思ったのか、跪いてヘンタイ貴族に許しを乞う。だが、この貴族は当然のように拒否してきた。 「ならん!斯様な平民の無礼を捨て置いては……」 「こいつにはできねぇよシエスタ。仮にも俺はヴァリエールと魔法学院の使者という扱いだ。そんな者を殺したとなれば、ヴァリエール家は宣戦 布告と見なしてヒットマンを送ってくるだろうよ。そうなりゃ身の破滅だぜ、こう言う抗争は裏社会と一緒だからな」 すかさず追い討ちの言葉を続ける俺に、シエスタは顔面蒼白、ヘンタイ貴族は茹で蛸のように真っ赤に顔を腫らしていた。 「相手が伯爵でも、そうかわらねぇんだよ……おい、殺す気になったか、貴族さんよ?」 「グググ……この場はシエスタに免じて命だけはくれてやる……早々に立ち去れぇい!!」 殺したくて殺したくて堪らないのだろうが、流石にヴァリエールやヒットマン、抗争等の単語が並んだら一線を超える勇気は出なかったのだろう。 もっとも、後でルイズにはちゃんと尽くしてやらんといけないだろうが……。 「まぁ、そうなるだろう。流石に抗争になったら潰されかねないだろうしな」 「ググ……貴様…減らず口を……おいっ!!何をボサッとしてるんだ!この者を屋敷から叩きだせ!!」 「その強気と言動が、後々後悔にならないように気をつけることだな」 捨て台詞とも言うべき言葉で締めると、俺は背後に立っている監視とも言うべき二人の衛兵に囲まれながら敷地内の母屋の屋敷から出された。 この世界に無理矢理来させられて気に入らない事だらけだが、こんな胸糞悪いのは初めてだ。今回ばかりは許さん。 俺はキョロキョロを左右を視線を送りながら屋敷内を見渡すと、この邸宅は思ったほど警備の監視が厳しくない事に気がつく。 「兄ちゃん達、すまんが靴紐が解けた。ちょっと直すから待ってくれ」 俺が何食わぬ顔してそう言うと、『仕様がねぇな』と言わんばかりの表情を浮かべて顎を突き出す仕草でOKを出した。そしてゆっくりと 座った瞬間――― 「ぐええぇぇぁああっ!!」 懐に素早く手を入れピストルを取り出して抜撃ち、ほぼゼロ距離射撃での銃撃で俺の左後ろに立っていた衛兵の腹部に銃弾を二発浴びせ、 悲痛な断末魔と共に転倒、恐らく絶命しただろう。 「ちょっ……!おい…お前どうなって……ふぇっ?!」 現状を把握できていない俺の右後ろに立って居たもう一人の衛兵は、聞いた事も無い音と共に倒れた同僚を見て慌てふためいている所に 後ろから頭部を銃撃、始末した。 「……おぅ、上手い具合に丁度良いじゃねぇか」 始末した二人の衛兵の死体を草叢に放り投げて隠滅すると、隠滅する前にひっぺ返した連中の防具を身に付けて変装する。これなら、屋敷 内に居ても早々怪しまれまい。 ――二度と立ち直れないような弱みを握れ
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mission:『ギーシュ・ド・グラモン:I Scream You Scream』 ――翌日。 朝食を済ますと早速優男がやって来る。全く下半身に忠実な野郎だ。 「で、今回はどうするんだ」 「街に行って薬を買ってくるのだけど、それに纏わる護衛とアドバイスが欲しいんだ」 薬?護衛?……急にいかがわしい方向になったぞ。この優男はこう見えてもいいとこの貴族なのだろ?何も俺に仕事を依頼するよりも実家に 何人か気心知れた人間を寄越した方が早いだろう? 「そんなもの、実家から人を寄越して貰えよ」 「いや……そうもいかないんだよ。だからこそ、トニーにお願いしてるんだよ」 嫌な予感がしてきた。 「お前なぁ、これは高くつくぞ……それはそうと、街までどうやって行くんだよ。片道3時間の道を行くのに、何も用意してないと言う事は ないよな?」 「いや…そこまで頭が回らなかったんだよ」 最悪だ、そこまで俺が手配するのかよ。いやマジでどうするんだ。 ――移動手段を探せ。 正直行き位は楽にしたい。やっている事が余りにいかがわしいだけに、ルイズには頼みたくはない。とは言え、キュルケに頼むとルイズが 余りにもうるさい事になるので頼みたくはない。モンモランシーや教師たちは論外とすると、残っているのはあの『御嬢様』しか居ないか。 「タバサを探すぞ。なるべくキュルケやルイズ、モンモランシーに見つからないようにな」 「ああ……でも、どうして見つからないようになのか?」 「面倒な事になるからだ、察しろ」 「今、お前がここに居るって事は、学生達は自室に居る可能性は高いのか?」 「その可能性は高い、タバサは一人で本を読んでいる事が多いからな」 それは好都合。事情を知っているルイズだけになら見つかっても良いかも知れないが、最悪な位に他の面子に見つかるのは面倒臭い事になる。 中でもキュルケとモンモランシーは後々酷い事になりそうだからな。 「部屋知ってるなら、案内してくれ」 「わかった」 急いでタバサの自室に走る男二人。一見すると物凄く妖しい光景に違いないが、本気なだけに性質が悪い。幸いと誰にも見つかる事無く、 目的の人物の部屋に辿り着いたのはよしとしよう。 「タバサ、すまないが邪魔するぞ……ギーシュも一緒だが」 ノックをしながらタバサの名を言うと、小さな声で『入って』と言われる。俺ら男二人はいそいそと、それこそ誰にも見つからないように 神速で部屋に入る。タバサはベットに横になりながら本を読んでおり、俺達を見ると本を読むのを止める。 「すまない、ここから街に行く良い手段は無いか?」 「……ギーシュ」 「いや、このバカ、俺に仕事頼んでおきながら前もって何も用意してなかったんだよ。出来れば手助けしてくれると嬉しいんだが」 俺がそう言うと、タバサはベットから立ち上がって窓を開ける。暫く様子を見ていると、またも自分の目よりも正気を疑う光景を見る。 「マジかよ」 もうそうそう、何が起こっても驚かないが、流石にこれには驚いた。窓の奥にそれこそ神速で青い……これはドラゴンとか言う奴か……が 目の前に現れやがった。 「乗って」 「あ…ああ……」 リバティーシティに戻ってこれを話しても、俺はおかしい人間だと思われかねない光景だな、これは。 「……最早、これは何かのファンタジー物語かビデオゲームとしか思えん……」 タバサに促されてこの竜の背に乗ると意外と物凄く乗りやすく、そして速い。馬なんか目じゃない速さだ……。 「全く目を見張る状況だ……この竜に名前あるのか?」 「シルフィード」 ぽつりと呟く程度だが、タバサは答える。本当に俺の世界の常識で物事考えると死ねるな。 ――約30分後、郊外。 馬で3時間掛かる距離が僅か30分かよ、流石は空飛んでいる竜だな、驚く事ばかりだ。 「タバサ恩に着るぜ」 礼を言わなそうな優男が礼を言っても、タバサは軽く頷くだけだった。本当に物静かな娘だな。 「愛してるぜ、ありがとうよタバサ」 悪戯の意味と礼の意味を込めてこう言うと、顔を真っ赤に紅潮させた。無表情なくらいな普段を見ているから面白かったりする。 「ト…トニーなんて事を……!」 「いや、本当に礼を込めた挨拶だ。ありがとうよ」 シシリアンって結構こう言う事をさらりと言うもんだぜ。唖然としている優男を無視して彼女に手を振ると、小声で『バカ』と呟いて 学院の方に向って飛んでいった。 「さてと、用事を済ませに行こうか」 「タバサが居た方が良くなかったか?」 「こんないかがわしい事に、これ以上足を突っ込ませる訳にはいかんだろ……さて、馬車を調達するかな……」
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全く奇妙な状況と言わざるを得ない。仮にも学院の中を走るレオーネ・センチネルと言うのは何とも奇妙なものだろう。運転席に俺、助手席に コルベール、極めつけは後部座席のど真ん中に腰を下ろすルイズ。 「……凄いな、こんな鉄の塊が快適に走行するなんて」 コルベールの珍しいものを見たと言う感激と、驚嘆な様は横から見ていても少々奇妙な気がする。車を極当たり前のように乗っている俺達から すれば当たり前と言えば当たり前か。一方のルイズは絶対座りにくい場所であろう真ん中に深々と腰を下ろし、不審そうにきょろきょろと辺りを 見回している。もう少し可愛気持って車窓から風景覗いてれば良いのに、しかめっ面で見ている様は、バックミラーから丸見えな俺に笑いを 十二分に誘ってくれる。 「何笑っているのよ!使い魔のくせに!!」 誰でも笑うぜ。まぁ、リバティーシティじゃそう笑う事も少なかったが、久しぶりに色々な意味で笑わせてもらったよ。暫しの穏やかなドライブは 色々とストレス発散にはなったんだがな。 「……これをガレージに使っていいのか?」 倉庫……にしては結構立派な作りな建物まで案内された俺だが、コルベールはどうぞ使ってくれと言ってきた。条件として俺が使わない時には 色々と調べさせてくれと言う。 「それ位なら構わないぜ……でも部品弄るのは勘弁な。スクラップにされたら直せなくなるからな」 「大丈夫ですよ、外見からしか見ませんから」 倉庫に車を収めるとコルベールと別れ、俺はルイズの後をとぼとぼと付いて行く。寄宿舎にあるルイズの部屋が俺の隠れ家らしい。俺のプライドが 全く持って許さないが、このルイズの使い魔になっちまっている以上こうせざるを得まい。また元の世界に帰る為にも利用せざるを得まい。無駄に 長い螺旋階段を昇る最中、幾人かのこの学院の生徒を見かけるが、俺を見るなり一歩下がってまじまじと見据えてくる。先程ルイズの髪を引っ張り、 ある意味陵辱して大暴れした訳だから当然か。 「入りなさい」 暫く歩くとこのルイズの部屋についたのだろう、扉を開けて俺に入るように指示する。部屋に入ると、本当に良いところのお嬢様と言えなくもない、 中世としては結構高級感のある部屋だった。 「入ったは良いが、俺は何処にいればいいんだ?」 「適当に座っていなさい」 「じゃあ適当にくつろがせて貰うぞ」 俺は横にある木製の椅子に腰を下ろすと灰皿を取り出し、煙草に火を付け、そんな時間は経っていなかったが久々の一服に興じる。しかしながら何だ、 奇妙な空間だよな。この部屋の主はこの小娘と言って差し障りないルイズで、俺はその部屋で煙草を吸うなんてな……。 「げほっげほっ何なのよその煙は……」 すると、煙草の煙で咽ているルイズが多分ネグリジェだろう姿で俺の前に現われる……こいつ、俺を男と思って無いのか?だが同時に、今日着ていた 薄汚れた服を手に持っている。嫌な予感がする。 「私の服を洗いなさい」 「やっぱりか。良いぜ、全てを晒す勇気があるならな」 ルイズから服を奪い取り、机に一つ一つ並べてやった。御丁寧に上下の下着まで含まれてやがる。行き成りの俺の行動にルイズは慌てふためき、服を 取り返そうとするが、腕力で勝る俺から何一つ取り返せなかった。 「色気の無い下着だなぁ……うわ、この上着襟筋真っ黒じゃねぇか……ちゃんと身体洗ってるのかよ」 もうセクハラ以外の何者でもない言葉を嫌味ったらしく並べる。洗ってやっても良いがこう高圧的態度を取られればな、俺もこうなる。最も、服を 洗われるんだぜ?見てないところで同じ事されるぞ。 ――…ルイズ側。 うわああああっ!!何てことするんだこいつは!!下着に色気がない?身体の洗い方が足りない?余計なお世話よ!! 「服洗って欲しいんじゃないのか?」 何クールに確認してるのよ!……『 躾 』よ!躾てやる!!徹底的に躾てやる!! 「可愛気のねぇ女だな……全く。16歳で貧相で貧しい胸でちっこくてさ、頭悪い性格悪いじゃ男寄ってこねぇぜ?」 「……くっ!!」 事実よ!事実なだけに余計に腹が立つ!!……って、なんでそんな事知ってるのよ!! 「俺は必要な情報をキュルケとか言う胸のでかい女に聞いただけだが?」 おのれ……!! 「あんまりカッカカッカすんな、美容に悪いぜ」 まるで私を諭すかのように言うこいつの目は今まで良く見ていなかったが、雰囲気がそう見せるのだろうか冷たく、冷淡な空気が影のように浮かぶ。 ……正直、私が今まで会ってきた人には居ない、何と言うか異質な……上手く表現できないけど、そんな存在感……。 「まあいいわ……そう言えばアンタ、名前聞いていなかったわね……確か……」 「トニー・シプリアーニ」 即答してきた……あれ、確か……。 「え…いや、確かあんたの名前は……アントニオ・シプリアーニではなかったけ?」 「いや……そうは呼んでくれるな。トニーだ、トニー・シプリアーニ。そっちの名前は極身近な人間にしか呼ばせないんだ」 一瞬、こいつの顔が変わった。普通に喋る時は余り感情を露にしないけど……怖い。冷たい感覚が背中に滲んで……あまり触れて欲しく無さそうね。 「洗濯位はしてやるから纏めておけよ」 もう、返す言葉がないわ……。 「ところでルイズ、こんな事を聞くのはどうかと思うが、俺の食事はどんな按配なんだ?」 一通りコミュニケーションを取った後、こんな事を切り出してみた。食事を取った後にこの世界に飛ばされてきたが、もう結構な時間が経過した筈だ。 流石の俺も腹が減る。だが、当のルイズは 「え?…食事?」 呆気に取られたような様子でこう聞き返してくる……嫌な予感がしてきた。 「Mr.コルベールに聞いたが、食事はあんたがたメイジが用意するって聞いたんだが……」 「……自分の分も忘れてたわ」 最悪だ、何てこった。突然訳の分からない世界に飛ばされ、金も意味を成さず、右も左も分からんこの状況下で、このルイズが唯一の生命線にも関らず、 自分の食事の事すらも忘れてしまう有様だとは……。 「だ…大丈夫よ!使い魔用の食べ物くらいはあるわ!」 何て言って出て来た袋にはまぁ何とも名状しがたいもので、『人間じゃない』使い魔なら食いそうだろうけどな!! 「こんな不味そうなの、猫だってくわねぇよ」 冗談じゃねぇ!!エル・ブッロのポルノビデオじゃねぇんだぞ!!リアルでSMじゃねぇか!!……おいおい、これは相当クレイジーだな。仕方ない、 コルベールの所に 逃 げ る か ! 「………」 俺はルイズが何かを取りにそっぽ向いた刹那、隙を突いて外に出る。この学院内の構造は理解していないが取り敢えず逃げる。今ルイズに捕まっちまっ たら面倒な事になりそうだからな! 「!?……ま…待ちなさい!!」 自分の持っていた手榴弾1個と身近に有った棍棒のような棒切れを咄嗟に取り、無駄に長い螺旋階段を落ちるかのように駆け下りる。冗談じゃない、 黙っていたらあの『お仕置き』とも言えなくもない、あんな得体の知れないイカレた物を喰わされるぜ。後ろからはルイズの絶叫が聞こえてくるが 無視をする。 「……くっ!!」 螺旋階段を降り切った直ぐ先で、共に黒いマントをつけた金髪で胸元を開けている優男とロングヘアの黒髪の女がいちゃいちゃと乳繰り合っている。 マセガキ共が。無視しても構わないが……いや、こいつらメイジだ。ルイズが絡むと厄介、可哀相だがここは 寝 て い て も ら お う か ……!! 「……キャ……ああっ!!」 「……おお!?」 棍棒のような棒切れを手に持って一気に乳繰り合っている二人に近寄る。ロングヘアの女と目が合い、声を上げられそうになったが俺の手の方が 一瞬早かった。棍棒を一閃、フルスイングすると二人纏めてなぎ倒す。殺す気は更々ないので追い討ちで二人共々足蹴で留めた。 「すまんな、後で身体で借りは返すぜ」 気を失っている二人にこう声を掛けると俺は全力疾走で回廊を疾走、なんとか中庭に抜け出る道筋は見えた。だが、肝心のコルベールの部屋の在り処が わからない。そうこうする内に回廊の奥からルイズの絶叫が聞こえてくる。 「なんてこった」 しかし事態は収まってはいない。目の前の噴水前では、色々と教えて貰ったキュルケとどうしてもオッサンにしか見えない奴と談笑している。流石に さっきの優男とは行かないだろう。しかも後ろにはルイズが迫ってると分かれば、仕方ない。ここは全力疾走で抜け出る他あるまい……。
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やりすぎたか?……いやいや、ああ言う世間知らずにはトラウマになる位の教育が必要だろうよ。煙草を吹かしながら学院をぶらつく。 どうやら俺はこの学院で知らない者が居ない状況になったようだ。興味本位で話し掛ける生徒が後を絶たない。 「トニー!トニーこんな所に居たの!!」 昼頃になると、ルイズが必死に俺を探していた。しかしおかしな話だよな、マフィアの俺をこんな風に呼ぶ少女と言う様はな。 「邪魔だと思っていたからな、そこらをぶらついていただけだ」 「一緒に居なさいよっ……早くこっちに来なさい!!」 やれやれ、子守りも楽じゃねぇなぁ……。 移動した先にはまぁ何と言うか、貴族らしいと言うか庭で昼食を催してやがる。随分と楽しそうな雰囲気だが、俺の姿が見えるとその 雰囲気は一変。先程の事態を知っている者は緊張の色が見え、嬲ったデブはトラウマでも植え付けられたのか逃げたす。本来はルイズの 話では召喚した使い魔の為にロクに授業がないと聞き及んでいたが、どう見てもこれは御茶会だな……。 「……」 しかしそれでも、この場が少々緊張に包まれているのが分かる。今までの流れを見てキュルケ辺りがルイズを馬鹿にしに来ると思うのだが、 キュルケとルイズが軽く一言・二言交わした後、火の付いたトカゲを連れてそのまま離れていく。だが、俺を見て一瞬ウィンクしたのを 見逃さない。 「あの姉ちゃんなら、お前を馬鹿にすると思ったんだけどなぁ」 「……アンタを恐れてるのよ」 mission:『平民の使い魔:ギーシェ午後の災難』 恐れてる?そんな馬鹿な。あの姉ちゃんの性格なら構わずからかってそうだがな。現に今ウィンクしたしな。 「お茶持ってきてよ、トニー」 「何?それ位……まぁいいか、持ってきてやるよ」 今日はルイズの顔を立てるんだったな、面倒だったが茶ぐらい持って来てやる事にした。 しかし無駄に広い中庭だよな……そんな事を考えて茶を取りに行こうとした時、エプロンドレスを着た姉ちゃんにぶつかり、姉ちゃんが 持っていたケーキを拍子で落としてしまった。 「すまない、余所見をしていた」 「いえ、大丈夫です」 落としたケーキを拾ってやると、姉ちゃんは俺の左手の甲を見てこう言う。 「貴方は……ミス・ヴァリエールの使い魔になったと言う……」 「俺の事を知ってるのか?」 「平民が使い魔に召喚され、大暴れしたって噂ですよ?ミス・ヴァリエールの髪を兎のように引っ張り上げたとか」 嫌な噂の流れ方だな……まぁ事実だから仕方がないがな。 「俺にしちゃあ貴族なり平民なりは知ったこっちゃないがな」 だが、この言葉でこの姉ちゃんはさも当然にこう言いきる。 「魔法が使えるのが貴族で、それ以外は平民でしょ?」 「なるほど、単純なものなのか……じゃあ姉ちゃんも魔法使いなのか?」 頭に浮かんだ事をそのまま聞いて見る。だが、彼女の答えはこうだった。 「とんでもない、私はここで御奉仕させて頂いているシエスタと言う者で貴方と同じ平民です。貴方はトニー・シプリアーニさんですよね?」 「ああ、合っている。トニーと呼んでくれて結構だ」 だが話の途中で、昨日後ろから不意打ちした優男がシエスタにこう声をかけた。 「おーい、ケーキはまだかい?」 「はい、ただいま」 だが、直前俺は止める。ん?まて、対面に座っているのは昨日と女が違う……あの姉ちゃんは世話になったモンモランシーではないか……野郎。 「いや待て、それは俺が持っていこう」 「しかし、それは今……」 『落ちた』もんだよ、あのマセガキにはこれで十分……鬼畜?とんでもない、当然の憂さ晴らしだろ……。 俺が憂さ晴らしを込めて落ちたケーキを持って優男の所に行くと、昨日世話になったモンモランシーとまるで恋人のように茶を飲み、昨日呼んだ であろう使い魔に頬擦りをしてモンモランシーに気味悪がられていた。 「お待たせいたしました」 モンモランシーは気が付いたがこの優男は俺には気が付かなかった。訳の分からない愛の語らいをやっている。 「ついでにお茶も頼むよ」 まぁ持ってきてやるよ、精々腹が下らない様気をつけるんだな……。